GIDと診断される人が、過去10年で増加している。GIDを含むセクシャルマイノリティーは、あまり皮膚に関心がないけれども、特殊な皮膚疾患を持っていることも多い。

GID/FTMは、男性化するために男性ホルモン治療を行う。FTMにおける男性ホルモン治療の皮膚の影響に対する情報はあまりない。そして、意外にもFTMニキビに限っての論文も少ない。

以前の論文で、一般に使われる男性ホルモンでは、ニキビがひどくなるケースはないと結論づけられていたが、我々の経験では、重度なニキビを経験したので、GIDについてのケースレポートを中心に述べていく。

ケース1
20代のFTM。男性ホルモン(テストステロン)を治療中に、顔に瘢痕を伴った軽い炎症性のニキビを生じる。
4か月間レチノイドを使用したが効果がなかった。ネビド使用前は、普通の男性ホルモンを6か月間使用し、ひげが生え、生理も止まっていた。

そのため、イソトレチノイン(注1)を内服(30㎎/日)し、9か月後にはニキビが完全に解消された。治療後3か月以降は継続しなかったが、ニキビが再発した。再度イソトレチノインを内服(20㎎/日)し、反応はとてもよかった。

ケース2
20代のFTM。ホルモン(ネビド)治療開始後6か月(3か月おきに!)で、顔、背中、胸部にひどいニキビを生じる。顔、体幹の発毛を生じて男性化していた。

イソトレチノインを内服(20㎎/日)を8か月投与し、ニキビは完全に治ったが瘢痕は残った。ニキビ治療を止めて6か月後には再度新しいニキビができ、doxicyclineを投与するものの軽減しないため、イソトレチノインを再度内服(20㎎を各1週間に3回)した。経過観察をしているが、薬はよく反応した。

男性ホルモン治療を始めると最初の6か月以内には、ほとんどのケースでニキビを発症するが、そのほとんどが次第に改善する。

今回報告された2ケースでは、治療開始後1年経っても改善せず、イソトレチノインを内服した。
(注1)イソトレチノイン(商品名;アキュテイン)は、米国等で難治性ニキビの治療に使用されていますが、日本国内では販売されていません。

FTMには関係ないと思いますが、このニキビ薬に関しては、厚生労働省からは、個人輸入し使用する際には注意喚起しています:妊娠中の女性が服用した場合に、胎児への催奇形性のおそれがあるということです。

考察
テストステロン治療開始後ほとんどのケースで、6か月以内にニキビを生じる、そして、次第に改善すると報告されている。
しかしながら、今回のケースでは、重度なニキビに発展し、テストステロン治療開始後1年後でさえ、イソトレチノインに頼らざるを得なかった。

このことから、以前のレポートにあるような重度なニキビが緩和していくことを説明できない。彼らは、違った治療をしたのかもしれない。または、それらのニキビは、女性として分泌された男性ホルモンによる本来のニキビだったのかもしれない。

ただし、男性ホルモンによって、男性化を継続的に維持することを望むのであれば、ニキビはたいてい受け入れるであろう。継続的にイソトレチノインを長く使わなければいけないことは、驚くことではない。

イソトレチノインを使用している間は、効果があるように思える。しかし、イソトレチノインの治療を止めてしまうと再びニキビが再発してしまう。なぜなら、根本的な原因は、男性ホルモンを使っているからである。

従来の研究によると、FTMのニキビは軽度で、瘢痕はできない。FTMのひとたちの間では、長期に男性ホルモンを使っても重度には至らないことが多い。

しかし、今回の2ケースでは、男性ホルモンの濃度が生理的範囲内にもかかわらず、重度な炎症で、瘢痕を伴ったニキビを生じた。男性ホルモン治療のゴールは、生理的範囲内でコントロールすることである。

男性ホルモンを軽減させると、ニキビは改善するが、男性ホルモンの影響は、かなり個人差が大きい。ただ、前述の彼らの報告によると、ニキビのできるできないは、男性ホルモンの血中濃度の個人差とには関係していなかった。男性ホルモン治療後のニキビが重度になるかは、個人差の影響が大きいと考える。

※コメント
男性ホルモン治療後には、多かれ少なかれニキビを生じます。当院にいらっしゃるFTMも全然できないひと、かなりひどくなるひと、本当に個人差が大きいと思います。
通常の思春期でも、ニキビがすごくできるひと、できないひとがいるように、外から補う形で男性ホルモンが身体に入ってくると、それに伴い思春期と同様なことが起きてるのだと思います。このような人は、男性ホルモンにかなり感受性があるのかもしれません。
今回のケースレポートでは、2人が重度なニキビを生じ、薬を使えば治るが止めてしまうと再度ニキビが増悪してしてしまうというのは、稀だというのですが、そもそも何人中2人なのかの記載がありませんでした。これでは、稀なのか稀ではないのかわかりません…。

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今回の海外医学文献は…
Severe Acne in Female-to-Male Transgender Patients
JAMMA Dermatol,2015;151(11):1260-1261