年を取るに従って、脳のニューロンの細胞死が起こり、数が減少する。そして、ニューロン自体も萎縮して、脳の萎縮が起こる。
18~90才の69人(男性34人、女性35人)を対象に、MRIで脳の体積と脳脊髄液の占める容積と年齢との相関を調べた。

年齢とともに、脳の体積が減少し、一方、脳脊髄液の占める容積が増加している。脳脊髄液の占めるスペースが増加するのは、脳の萎縮によって頭蓋骨と脳との間に若干のスペースができ、相対的に、脳室が大きくなるからだと思われる。

注目すべきは、男女での脳の体積減少と脳脊髄液の占める容積の拡大に有意差が見られることである(図1)。脳脊髄液に関しては、男性の方が拡大率が高いことがわかり、このことは、男性の方が脳の萎縮が激しく、頭蓋骨と脳とのスペースが大きくなったことがわかる。年齢とともに、脳の萎縮が起こると、脳全体だけではなく、大脳の溝にもすき間が生じる。
図1

図2は、脳体積に対する脳脊髄液のスペース比率を脳と脳室、脳と大脳溝、頭蓋骨の間で調べたもの。
脳室の拡大では、男女の差は見られないが、男性の脳萎縮が進んでいることを示し、年齢とともに脳の萎縮する速さが男性の方が3倍近く高い。

この男女の差の原因については不明であるが、考えられる原因としてエストロゲンが考えられ、エストロゲンが女性の脳の萎縮を防いでいるのではないかと考えられている。女性の脳の萎縮の始まりが、閉経の時期にあることも興味があることである。

最近、エストロゲンが老齢女性の認知能力や記憶力の保持の能力の低下を防止するという報告がかなり目立つようになった。閉経後のエストロゲンの補充療法は、骨粗しょう症やセックス活動だけでなく、知的機能回復にも有効である可能性が出てきた。

今回のポイント
*男性ホルモン治療を開始すると、女性ホルモン(エストロゲン)がなくなるため、記憶力が一時的に低下する可能性がある。

※コメント
今回、いっけん性同一性障害gidと関係ない論文かと思われるかもしれませんが、エストロゲンが記憶力の能力についての関係の記載があったので、掲載してみました。

「あっ、これだ」と思ったのは、どうもFTMの人たちは、男性ホルモン治療を開始しだすと、記憶力が以前に比べて悪くなったというひとがかなりいるのです。ホルモンに関しての教科書など見ても一切見当たりませんでした。

たまたま、エストロゲンと脳の関係についての論文をみていたら、なんと、エストロゲンがなくなると記憶力の保持の能力が低下するとあるではないですか・・・。ということで、今回アップしてみました。

FTMの男性ホルモン治療を開始すると、卵巣の機能は落ち、エストロゲンが低下します。もしかして、今回の論文のように、エストロゲンの低下が記憶力低下の原因なのかもしれません。

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☞海外医学論文
Gender differences in age effect on brain atrophy measured by magnetic resonance imaging
Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88,2845-2849