執筆者:性同一性障害(GID)学会認定医 大谷伸久

性同一性障害gidにおける性別適合手術(SRS)に対する性機能などの影響に関するレポートは多いが、日常生活における影響に役立つデータはあまりない。今回は、フランスからの報告。

この研究の目的は、ホルモン治療と生活の質(QOL)の自己レポートの関係を調べたものである。GIDと一般人の生活の質の比較、ホルモン治療をしているGIDと何も治療をしていないGIDの比較をしている。

次の質問をして比較している☞生活の質に関しての36項目(Short Form-36)

※SF-36は、8つの健康概念の項目からなり、複数の質問項目から成り立っている。
8つの概念とは、(1)身体機能PF (2)日常生活の身体的な役割機能RF  (3)体の痛み  (4)一般的な健康感GH (5)活力V (6)社会的生活機能SF (7)日常生活の精神的な役割機能RE (8)心の健康MH

*対象の平均年齢は、34歳。MTF31人、FTM30人を対象。72%(MTF25人、FTM19人)は、ホルモン治療をしている。
*ホルモン治療と気分の落ち込みは、それぞれ単独で、メンタルの質問で予期できた。
*ホルモン治療は、生活の質を十分に高めることができたが、気分の落ち込みがあると、生活の質は落ちる。
*GIDの生活の質は、ホルモン治療の有無とは別に、2つ以外の項目を抜かし、一般人と変わりはない。(活動度はGIDで低く、一般的な健康度は、一般人が低い)

GIDにおけるホルモン治療は、ポジティブな影響を与えることがわかった。

MTFは、FTMと違って、生物学的に同じ同性に対しての性的指向が低い。それぞれの性的指向は、MTF→男性(54.8%)、MTF→女性(45.2%)、一方、FTM→女性(96.7%)、FTM→男3.3%。教育レベルは、QOLに関係していない。

GIDに関する生活の質(QOL),満足度、性別適合手術(SRS)後の性的機能に関してのレポートいくつかあるが、性別適合手術(SRS)していないGIDの日常生活レベルでのホルモン治療に関する役割についてのレポートはほとんどない。これらの情報は、GID当事者と医療サイドもよく知っておくべき情報である。

ホルモン治療と生活の質(QOL)

ホルモン治療は、よりよい生活の質に関係している。特に男性ホルモンを受けているFTMは、ほぼすべての項目でQOLが高く、メンタルヘルス度も男性ホルモン治療していないFTMに比べ高い。

ホルモン治療は、性別適合手術(SRS)への重要な治療の1つである。生活の質の向上は、ホルモン治療がうまくいっているかいないかの目安になるし、性別適合手術(SRS)の適応があるかもわかる。

性別適合手術(SRS)は、少なくとも1年の男性ホルモン治療後に勧められる治療である(この点、日本の性同一性障害GIDのガイドラインと同じ)。

性別適合手術(SRS)前の要因としてのホルモン治療中の生活の質が、性別適合手術(SRS)後により生活の質はよくなったのか、もしくは、あまりよくないのかをさらに追跡調査をする必要があるだろう。

ホルモン治療の有無による生活の質(QOL)への影響

ホルモン治療受けているGID/MTF、FTMともに、生活の質(QOL)に関し、年齢、性別に関連したコントロール群と比べると、同じかそれよりも良い結果が表れている。それは、ホルモン治療を受けているGIDが、医療機関を比較的容易に受診したりしていることからもわかる。

他に重要なことは、ホルモン治療を受けているGIDとホルモン治療を受けていないGIDとでは、二極化していることがある。ホルモン治療を受けているGIDは、一般的なメンタルヘルス度は高く、ホルモン治療を受けていないGIDは、日常生活の精神的な役割機能が低い。この結果は、ホルモン治療を受けていないこと、ホルモン治療を受けたことによる生活の質(QOL)の向上によるものであろう。

GIDの精神疾患(うつ病)とQOL

従来のレポートによると、うつ病は、QOLを低くさせるという。このことは、QOLに影響するマイナスな事柄である精神疾患の治療などに関連するからかもしれない。

性同一性障害の年齢と生活の質(QOL)

最近の研究によると、年齢がいったGIDは、若いGIDに比べQOLが高いという。一方、以前は、年齢がいったGIDの方がQOLが低いとされていた。しかしながら、ホルモン治療をしているグループには、いろいろな条件が存在しているために、年齢とQOLとの関連性は見いだせなかった。

年齢のいっているGIDは、若いGIDに比べて、ホルモン治療をしている期間がより長く、ホルモン治療を長くしているとより精神的にも順応していることも考えられる。しかしながら、年齢とホルモン治療の期間との関連性は見出されていない。

FTMの男性化、MTFの女性化による生活の質(QOL)

性の自認は、QOLとは関連性がなかったが、以前のレポートでは、FTMは、MTFに比べQOLがより高いという報告がある。これらのレポートの多くは、性別適合手術後に評価している。

確かに、FTMは、MTFに比べて手術することにより恩恵を受けやすい。例えば、乳腺摘出術(胸オペ)は、人から見られればわかるが、それに対して膣形成は人から見てもわからないので対照的である。
胸オペのメリット、デメリット

どのようなケースでも、FTMはよりたやすく男性と認識される。なぜなら、女性の男性化は、男性の女性化に比べてより広く社会に認められる傾向にあるからである。

性同一性障害の性的指向とQOL

同性(生物学的に)に対する性的指向がないGIDは、QOLが高い。(例えば、男性に対して性指向がないMTF)このことは、以前の報告とは反対である。
あるレポートによると、ホモセクシャル(同性愛者)GID(生物学的な同性に対して魅力を感じる:FTMが女性を好きになる)は、ヘテロセクシャル(異性愛)GIDよりも多くの点で、より多くの性的指向を持っているという。しかしながら、このいくつかのレポートの1つに、性別適合手術後の感情(思い)が反映されている結果だと関連づけている。

今回のヘテロセクシャル(異性愛)GIDに関して言えば、とくに、MTFで年齢が高い、独身でなく、子どもを持っているひとに多い。このことは、生物学的に人生の最初はよく適合していて、のちに性別適合手術(SRS)を行ったGIDにしばしばみられることである。この3つの要素(年齢が高い、独身でなく、子どもを持っているひと)は、QOLが高いことが知られている。

※ここでいう、ホモセクシャル、ヘテロセクシャルは、性の自認でなく、生物学的な性の次元でに言及している。生物学的には、FTM(女性)が女性を好きになるのは、性の自認が男性であるなら、通常ホモセクシャルとは言わないが、生物学的(医学慣用的に)には、ホモセクシャルになる。

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海外医学文献☞
Is Hormone therapy Associated with Better Quality of life in Transsexuals?
J Sex Med 2012;9:531-541