執筆者:性同一性障害(GID)学会認定医 大谷伸久

性同一性障害(GID)の性に関する情報は意外に少ないものです。海外の医学論文にはいくつかの報告がされています。

ふつうのひとでも、性に関心あるひとは多い?かと思いますが、自分の性に関することって、親密な人以外にはあまり話さないものです。(個人的には下ネタ好きですが・・・聞いていない?)

今回は、性に関することでも、もう少し掘り下げて、セックスの満足度だけでなく、オーガズムはどうなのか?という医学論文をご紹介します。


性同一性障害の性活動

性別適合手術後のオーガズムに関する情報はとても少ない。MTF14人、FTM9人にアンケート調査したところ、MTFでオーガズムが減少し、FTMでは増加した。

FTMはもちろんのこと、MTFは、オーガズムが減少したにもかかわらず、セックス時の満足度は高かった。

性道具を使ってのセックスでは、満足度が86%であった。MTFは75%がセックスの回数が増え、FTMはほぼ100%に増加した。

ペニス形成の有無は、オーガズム、セックスの満足度に関係しなかった。性機能が低くても、身体の変化によるボディーイメージが変わったこと、性自認、自己意識に満足しているからだと思われる。

GIDの性行動についての研究はあまりなく、手術の痛みの程度、不満足度、情緒、手術費用などに注意が向かれている。手術後のオーガズムに注意が注がれないのは少し不思議である。


セックスの満足度とオーガズム

当事者の観点から2つの主な理由を挙げてみると、①ボディーイメージにおいて、身体の変化を通して、性自認を確認できる。②性機能と相手を満足させるため。

この2つからでは、当事者たちのセックスの関係性が見えるとは限らない。そのため、以下の質問も加えてみた。

1.手術後に性機能の満足度はどのくらい?
2.満足する性機能を満足させるには、オーガズムの役割は?
3.過去のオーガズムの許容量に比較すると、現在のそれは減ったか?変わらないか?増えたか?
4.MTFとFTMとでは、オーガズムとセックスの満足度の違いはなに?
5.性的機能が不能にもかかわらず、ボディーイメージを変えることができるか?

MTFは、86%がSRSの結果に満足している。FTMは、89%に満足し、従来のある報告では97%という結果もある。

従来の報告では、マスターベーションでのオーガズムが41%と高いが、セックスでのオーガズムは28%とあまり変わりがない。

オーラルセックス80%、セックス67%の満足であるにも関わらず、今回の研究結果は、オーガズムを感じた人が少ないにもかかわらず、セックスに64%が満足度を感じていた。

最初に提起された疑問はどうだったのか?
1.手術後に性機能の満足度はどのくらい?
FTMは77%の性機能の満足度を示し、オーガズムと性の満足度には関連性があったと言える。

2.満足する性機能を満足させるには、オーガズムの役割は?
セックスの満足度が高いとオーガズムも同じように高くなるFTMは直に関連性があった。MTFは、1/4はオーガズムを感じ、2/3はセックスで満足を得ている。57%が男性としてのオーガズムを持っていたが、女性としてのオーガズムは持ち合わせなかった。

4.MTFとFTMとでは、オーガズムとセックスの満足度の違いはなにか?
MTF、FTMと比べるとオーガズムは、MTFが少なく、FTMは増加傾向にあったが、セックスに対する満足度はほぼ同じであった。

FTMにおいては、ペニス形成していることが、オーガズムとセックスの満足度とに違いはそれほど見いだされなかった。大切なのは、ボディーイメージに対するインパクト、性自認、自己意識なのであろう。

これらの理由によりペニス形成が重要であるのであれば、当事者によって得られる満足度はもっと頻度は高くなるのではないだろうか?

5.性的機能が不能にもかかわらず、ボディーイメージを変えることができるか?
答えは明らかだった。Yesと。なぜなら、MTFのほとんどは性機能に適応していないけれども、64%がセックスに満足し、86%が手術に満足している。

6.一部のGIDでは、手術後に同性愛の適応もありうるが、今回からのレポートからわかるか?(※この場合の同性愛は、MTF→女性、FTM→男性)

SRS手術後に同性愛に適合するひともいるのではないかと推測したが、まったく違った結果であり、少数派まだセックス未経験であるが、すべてが異性に馴染むようであった。

セックスとオーガズムの考察

MTFでは?

パートーナーを選ぶ基準として、手術前は、女性である傾向が強いが、手術後になると生物学的に同じ男性に馴染んでいく傾向にあるという報告がある。

そして、膣機能を持つ手術をしたひとは1/3であった。そのうち手術後3/4が男性とセックスを経験する。従来の研究報告では、手術に満足しているひとは、術後は性活動が活発にある傾向にあったとする報告があるが、性機能とオーガズムとの関係は記載がなかった。

MTFの手術後の性欲、性行動がなくなることが多いので、あってもなくてもよいという意見もあるが、実際には、たいてい、もしくは、いつもは75%、マスターベーションでは41%、性道具でのマスターベーションでは31%の頻度でオーガズムを感じた。

また、女性とのペッティング16%、オーラルセックス19%、セックス26%でオーガズムを感じ、男性とでは、触ったりするだけの行為20%、オーラルセックス10%、女性同士のようなセックス(tribadismトリバディズム)12%でオーガズムを感じた。

男性とのセックスでの満足度としては、MTFは38%がセックスで最高の満足度を経験し、従来の報告と比較すると、マスターベーションで55%から80%セックスとオーラルセックス80%と幅がある。一方、19%は女性とのセックスに関しては不満足の結果であった。

FTMでは?

多くの研究報告から、ペニス形成は重要で、ペニスを持ち合わせていれば、身体の満足度は高いという。一方、手術があまりうまくいかなかった場合には、不満足感が増強する。実際には、ペニスの影響は明らかではない。

コメント

この性の問題はGIDのひとにかかわらず、生きていく上で大切な事柄だと思います。GIDの人たちの中にも興味があるひとも多くいるのではないでしょうか?

お互い知り合った仲であれば話せることもありますが、飲みの席でもこの話題に苦手あるいは嫌がるひともいます。なかなか普通に診察室で声高に話す内容でもなく、面と向かって質問するのはとても難しいと思います。

今回のこの研究論文では対象にしている人数が少なすぎますよね。MTF14人、FTM9人ですから。うちのクリニックでも1度行ってみたいと思いますが、やはりアンケート形式の匿名で行うのがよいのかと。みんな協力してくれるだろうか?
☞今回の医学論文
“orgasm in the postoperative transsexual ”
Archives of Sexual Behavior 22(2):145-55

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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