男性ホルモン(テストステロン)治療による心血管系疾患による死亡率は高いのか?

FTMに対する男性ホルモン(テストステロン)治療での心血管系の危険因子は、多血症が原因が挙げられるが、ほとんどないと言われている。多嚢胞性卵巣症候群に見られるアンドロゲンが高値の状態にみられる糖代謝異常(インスリン抵抗性、インスリン分泌増加)も見られない。

エストロゲン製剤と違い、テストステロンは化学的に構造式を大幅に変更はしておらず、飲み薬でない筋肉注射と経皮テストステロン(ジェル、テープ)が主流である。 テストステロン・アンデカノエイトの飲み薬は、血中濃度が高くならないし、最近はあまり使われていないので、情報もあまりない。

FTMにおける心血管系の危険因子(従来の報告)

ベルギーの研究によると、男性ホルモン治療を受けている性同一性障害・FTMにとっては、心血管系の危険因子はかなりの程度に見られるという。その危険因子に高コレステロール血症がある。高コレステロール血症は、GID/FTMの64%に見られる。高トリグリセライドは、GID/MTFよりもFTMに多くみられる。

FTMもMTFと同様に血圧が高くなる傾向にあり、FTM28%、MTF26%のひとに降圧剤を内服していた。収縮期圧、拡張期圧ともにFTMの方が血圧が高めである。 FTMには心筋梗塞、脳血管疾患、深部静脈血栓のような心血管系の病気になったものはいなかった。

他のFTMの研究では、一般人にくらべて心血管系疾患の致死率は同じかそれ以下の頻度であった。ただ1つの研究では、心血管系の死亡率は高かったが、対象とした人数が少なく、長期の経過観察ではなかった。

短期・中期の経過観察では、男性ホルモン治療しているFTMの心血管系の病気の頻度は相対的に低いが、対象としているFTMの人数が少なく、明らかにMTFより若年層である。

FTMの男性ホルモンと多嚢胞性卵巣症候群の男性ホルモン高値との類似点

大規模な研究が少ないが、印象的には男性ホルモン治療をしている期間と心血管系の病気との強い相関関係はないと思われる。 多嚢胞性卵巣症候群を伴っている女性は、高アンドロゲン(男性ホルモン)で、糖尿病Ⅱ型になりやすく、心血管系の病気のリスクも高くなると言われている。

実際には、多嚢胞性卵巣症候群には多くのリスク因子が見受けられるが、心血管系の病気になったり、死亡率が圧倒的に高いと言うことはない。なぜなのか明らかではない。

アンドロゲンが高い多嚢胞性卵巣症候群に比べ、男性ホルモンを受けているFTMは、HDLが低く、トリグリセライドは高い傾向にあ
る。多嚢胞性卵巣症候群に見られるインスリン抵抗性に影響はされない。

卵巣摘出後は心冠動脈疾患のリスク↑

が高くなる驚くことに、閉経になりつつある女性と同様に、卵巣摘出した女性は、一般女性に比べて、心冠動脈疾患のリスクが大幅に高くなる。 このリスクの上昇は、閉経後の卵巣からエストラジオールが分泌されないことよりテストステロンが分泌されないことによるものである。

心血管系のリスクを考える上では、成人期における反対の性ホルモンの作用だが、本質的は胎児期、新生児期にあると考えられる。 男性は、胎生時の外性器の形成期に、テストステロンが曝露される。FTMは、この早期の胎児期のテストステロンの曝露がない。

アテローム性の動脈硬化の早期、晩期における別性のホルモンの違いによる影響が存在しているのではないか?アテローム性動脈硬化は、血管の弾力性がなくなり、 血管内皮細胞とその保護的機能、炎症細胞に対してのホルモンによる作用は、血管内に存在するアテローム性動脈硬化の進行状況による。

その本人の性の環境において、心血管系は性の違いはない。もちろん、遺伝子の発現、血管内皮細胞による細胞の表現型においての本来備わっている性の違いはあるのだろう。 心血管系の機能は、これらの本来備わっている性差の違いによるものかもしれない。

いつも読んでいただきありがとうございます。
少しは役に立ったでしょうか?

にほんブログ村

The effects of testosterone administration on cardiovascular morbidity and mortality in FTM persons
Euro Society of Endocrinology,170;6