性同一性障害・MTFにおける女性ホルモン治療において、心血管系疾患を生じるリスク因子はいくつか挙げられるが、臨床の場でも、ある検査値がどうなった時にリスクが生じるかは、はっきりしたことはわかっていない。

MTFの心血管系疾患の考えられるリスク因子

体重
内臓脂肪
全体重の脂肪
インスリン
脂質
コレステロール
LDL
HDL
トリグリセライド
心拍数
収縮期圧
拡張期圧
多血症
炎症マーカー
過去におけるMTFの女性ホルモン治療による心血管系疾患の発症についてのいくつかの報告がある。

対象人数 観察期間 女性ホルモン治療 結果
303人 4.4年 エチニル・エストラジオール 静脈血栓・肺梗塞リスク4.5倍、心血管系疾患なし
816人 9.5年 エチニル・エストラジオール
17βエストラジオール
静脈血栓リスク20倍、心血管系疾患なし
966人 18.5年 エチニル・エストラジオール
17βエストラジオール
虚血性心疾患リスク1.64倍

・エチニル・エストラジオールは、心血管系疾患の発症頻度が増えるということはなく、むしろ、静脈血栓症を引き起こす頻度が高い。ただし、他のリスク因子と比べ、エチニル・エストラジオールは3倍のリスクがあると報告もある。(表の場合は、1.64倍)

・単一の女性ホルモン治療でなくいろいろな種類のエストロゲンを使っているMTFは、心血管系疾患の頻度が高くなるようである。

・心血管系疾患のリスク因子の1つに糖尿病が指摘されている。糖尿病は、他の因子と比べるとダントツで2倍以上のリスクがある。

・エチニル・エストラジオールと酒石酸は、インスリン抵抗性を示し、糖尿病予備軍となる可能性がある。

・年齢も関係があると思われ、例えば、虚血性心疾患を生じた人の平均年齢は59歳で、エストロゲンを使用していた期間が平均13.2年だった。

☞海外医学文献情報
Effects of cross-sex hormone treatment on cardiovascular health in transsexual persons