FTMの男性型脱毛症について

テストステロンとジハイドロテストステロン (DHT) は、FTMのにきび、多毛症、脱毛症の発症に直接関与する。

外因性(外部から補う)の男性ホルモンは、すぐには男性化の影響は受けない。

男性ホルモン治療開始後、ニキビと皮脂分泌は6カ月以内で、多毛症は6~12カ月に出現する。ところが、脱毛症は、年単位で遅く出現する。

今回の研究では、男性ホルモン治療開始後約3.25年に、男子型脱毛症が出現する。この期間は以前からの報告と同様である。

今回のFTMの70%に家族性の脱毛症(薄毛)のひとがいて、このグループは他のグループより1年早くに脱毛症が発症した。

家族性の脱毛症の遺伝子を持つ人たちは、男性ホルモン治療早々に男性型脱毛症になりやすいのかもしれない。そして、このようなことを、男性ホルモン治療を開始するFTMに事前に知らせておいた方がよいのかもしれない。

FTMの男性型脱毛症(AGA)治療に対して、しばしば下記の様々な理由が見受けられる。
(i) 男性型脱毛症(AGA) はしばしば病気とみなされる

(ii) 何人かのFTMは、男性型脱毛症は、望ましい男性的な特徴と考え、薄毛の評価を求めていない。

(iii) 可能である薄毛治療の安全性とその効果に対する情報の少なさと治療の将来性の誤解がある。このFTMに対する薄毛の治療に関しての発表されている臨床研究の報告がない。

(iv) 多くのFTMが、経済的理由、偏見の非難があるために医療機関にアクセスしない。

GIDにとって、ボディーイメージは、非常に大切である。患者満足度を評価するいくつかのスケールは、自分の体の男らしさ、女らしさに基づいている。

男性の髪の分布と密度は、さまざまな要因 (例えば人種、年齢、社会の輪) に基づいて各患者によって異なった認識を持っている。そのため、男性型脱毛症は、あるFTMの人にとっては、もしかして望ましい男性的な特徴として考えられているひともいるかもしれない。(男らしさの兆候の1つ?)

テストステロンは、5α レダクターゼ酵素によってジヒドロテストステロン (DHT) に変換される。2 型は毛包、前立腺、精嚢、精巣、肝臓に存在する。

フィナステリドは、この5α レダクターゼ酵素に特異的に拮抗し、DHTの血液濃度を減らし、脱毛症を改善させる。

フィナステリドは、毛包に対して選択的に反応する。アンドロゲン受容体に対して、類似性はなく、テストステロンの作用に干渉しない。これと一致して、我々の患者の血中テストステロンのレベルは、推奨されているレベルから逸脱していない。

今回の臨床データーは、男性ホルモンを受けているFTMの診断・治療は、ふつうの男性における男性型脱毛症として扱われた。

前頭・側頭型の薄毛は、フィナステリドによく反応したことが明らかになった。

(a,b)は、FTM男性の男性型脱毛症、グレードⅣ
(c,d) は、フィナステリド 1㎎の経口投与12カ月後である。前頭側頭の脱毛パターンがグレード IIIに有意に改善している。

重要な所見は、私たちの研究では、毎日、フィナステリド1㎎と低用量でも、頭皮の DHT濃度を60%までに下げた。典型的なAGAの女性は、フィナステリド2.5~5㎎の高用量を必要とするのに対し、脱毛症を臨床的に改善するために十分であった容量であった。

フィナステリドと性的機能の相関関係に対して、性欲、勃起力、性機能不全などの作用するのかは近年議論の対象とされてきた。

最近のメタ解析では、男性型脱毛症を伴った男性においては、統計的にはそれほど重要ではないと結論ずけられているが、臨床治験、メタ解析からは、役立つ安全性に関する情報は乏しい。

本研究では、フィナステリドはよく効き、重要な副作用もなく、通常のベースライン(治療前の)に比べて性欲が落ちたということもなかった。女性の多毛症では、フィナステリドの効果はないことは興味深い。

我々の患者では、治療1年後に Ferriman-Gallwey スコア(多毛症のスコア)の減少は認められなかった。おそらく、 多毛症に対しての有効な容量は、毎日 5 mgだからであろう。

自分の声の変化もないことが報告された。FTMに対してのテストステロン治療に関しては、多くのわからないことがまだたくさんある。

そのため、フィナステリド1 mg で開始する前までに、患者が二次性徴が過ぎてから、およびテストステロンのレベルが基準範囲内にしておくようにする。ある程度男性化が進んだ時期にAGA の治療を待機するが妥当だと思われる。

AGAは、心血管疾患の危険因子と指摘され、男性ホルモン治療は、メタボリック症候群とも関係している。このため、AGAを伴うFTMは、心血管疾患の危険因子が高いかもしれない。しかし、本研究を通して、今回のFTMは、心血管疾患は見いだされなかった。

フィナステリド1㎎の治療では、BMI、脂質、血糖レベル、血圧、その他の血液データーは、基準値以内で異常は見いだされなかった。

今回の研究では、心血管疾患の発症はなかったが、今回の研究は、AGAを伴う男性が心血管リスクが高いを持っているか、という質問に答える設定にはなっていないので、今後の長期的な研究で、このリスクの可能性を評価すべきであろう。

最後に、AGA 分類は、男性と女性の両方の男性と女性のパターンが存在するため混乱する。このことは、さらにFTM患者を混乱させる。このため、以下のように定義した。

FtM-AGA-M  FTM男性型脱毛症
FtM-AGA-F   FTM女性型脱毛症

本研究は、限られた少ない対象群で、FTMの短期的な経過観察である。それにもかかわらず、本研究は、FTMに対してのフィナステリドの有効性と安全性のための初めて研究であった。

まとめ
男性型脱毛症は、男性ホルモン治療を受けているFTMにもなりうる。典型的な場合、数年で脱毛症を生じる。男性の男性型脱毛症と似ているが、フィナステリドの副作用は、重要なものは生じず、よく効く。

薄毛の家系の男性ホルモン治療をしているFTM人は、薄毛になるかもしれない要因なのかは、さらなる研究が必要である。また、このような人たちにとって、フィナステリドの効果と安全性について調査する必要がある。

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☞参考医学文献
Therapeutic experience with oral finasteride for androgenetic alopecia in female‐to‐male transgender patients
Clin Exp Dermatol. 2017 Oct;42(7):743-748