執筆者:性同一性障害(GID)学会認定医 大谷伸久

GIDは、ホルモン治療によってがんの発生率は高くなるの?

最新のデータでは、GIDの人たちがホルモン治療をした結果、がんのリスクが高くなるという報告は今のところありません。

研究の規模が小さいけれども、FTM、MTFの人たちが、ふつうの男女に比べて、がんの発症頻度が異なるということはありません。そのいくつかを紹介しましょう。

MTFの乳がん

男性の乳がんの発症頻度に比べて、女性ホルモン(エストロゲン)治療をしているMTFの乳がんの発症頻度が高くなるという報告はない。MTFの乳がんは、ふつうの女性の乳がんの発症頻度よりも低い。

従来の報告によると、乳がんの発症率は、FTMで100000人に5.9人、MTFで100000人に4.1人(Gooren:2013年)、11カ月のエストロゲン治療をしていた56人のMTFではいなかった。一方、130人のFTMにも乳がんの発症はいなかった。(Kuroda:2008年、注:対象が少なすぎます)

その他の報告では、1968年以来エストロゲン治療していたMTFの乳がんは、10例報告されている。似たような報告に、ある医療機関での過去50年以内には、4件の乳がんが報告されている。
MTFの乳がん症例報告

FTMの生殖系疾患

FTMの乳がんのリスクよりもむしろ男性ホルモンにより女性生殖系に影響を与える。例えば、男性ホルモンを1年続けると、卵巣内の黄体の機能が保ったまま、子宮頚部の上皮細胞、子宮内膜の萎縮が起きる。

15人のFTMから、手術で切除された子宮内膜組織は、遺伝子に問題もなく、内膜腫瘍にも関連性のある遺伝子もなかった。

エストロゲンレセプター(ERαとERβ)が膣の内膜にあるというFTMの症例報告はされていない。
FTMの子宮頚がんのリスク

MTFの前立腺がん

MTFの前立腺がんがいくつか報告されている。

MTFの睾丸摘出した2306人の調査によると、男性ホルモン治療を開始する時点の平均年齢は29.3才で、限定された対象群であったが、前立腺がんの発症率は0.04%だった。
MTFの前立腺がん①
MTFの前立腺がん②

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☞今回の海外医学論文
Hormone therapy in transgender adults is safe with provider supervision
Journal of Clinical & Translational Endocrinology 2(2015)55-60; oncologyの項目から