執筆者:性同一性障害(GID)学会認定医 大谷伸久

MTFの乳がん

・MTFトランスジェンダーは、女性化の獲得と維持のために女性ホルモン治療を行う。

・まれではあるが、長期の女性ホルモン治療に関連した深刻な合併症の報告。
・女性ホルモンは中心的な治療で、長期の治療にも際し使い勝手がよいが、臨床医は、本質的な合併症について精通していなければならない。
・60歳のMTFは、8年の女性ホルモン治療を受けたのちに、ホルモン感受性の乳がんが見つかった。女性ホルモン治療中また、のちも乳がん検診のスクリーニングを勧める。
・長期の女性ホルモンを受けている場合、プロラクチンも測定するべき。
・骨粗鬆症、骨折にも注意が必要。

MTFの治療は、ホルモン治療する、しない、美容外科のオペ、性適合手術(SRS)とさまざまである。女性ホルモン治療は、女性化のために必要であるし、骨量不足、性ホルモンの欠如を避けるために、SRS後にも治療が必要である。

本ケースのMTFは、SRS後で女性ホルモン治療中に乳がんが見つかった。このような結果を招かないように、長期に女性ホルモンを行っているMTFは、SRS後の乳がんのスクリーニングが推奨される。

今回の乳がんが見つかったMTFは、52歳で女性ホルモン治療を初めて、1年後にSRSを行った。ホルモン治療7年後に乳がんを発見。乳がん遺伝子BRCAは陰性、クラインフェルター症候群なし。女性家族にも乳がん、卵巣がんはいない。

考察
男性の乳がんは、まれであり、10万に1人の割合である。男性の乳がんの発症年齢のピークは、68~71歳で女性より5~10年上である。

男性は乳がんのリスクがほとんどないが、乳がん遺伝子BRCA、家族歴、ホルモン欠乏、女性ホルモン治療は、リスクが上昇する。今回の症例では、投与した女性ホルモンが原因かどうかはわかない。乳がんの家族歴はなく、他のリスク要因はアルコールのみだった。

MTFの乳がんはまれで、レポート報告もあまりない。MTFに対する女性ホルモン治療は、1970年代から始まり、女性ホルモンの投与期間が短いと乳がんの原因を明らかにできない。

加齢と女性ホルモン投与は、乳がんを進行させる原因になる。ある時期(高齢)になれば、女性ホルモン治療を適切な時期に止めることも必要だろう。

女性ホルモン治療をしている場合には、骨に関しても、医師は注意を払うべきである。骨粗鬆症を予防するためビタミンDとカルシウムがよい。DEXA(骨密度の指標)も行った方がよいし、女性ホルモンを継続的に行わない場合は、1~2年おきにDEXAを行った方がよい。

MTFにとって、ホルモン感受性のがんに関連しているのは、前立腺がんがある。前立腺は、通常SRSでは摘出しない。摘出することにより、機能障害(尿漏れなど)を起こすからである。

アンドロゲンがないこと(睾丸摘出、SRS)は、前立腺を小さくし、女性ホルモンは、前立腺がんを抑制する。

50歳を過ぎてかの女性ホルモン投与後に前立腺がになるケースが数例の報告がされている。考えられることは、女性ホルモン治療を行う前から前立腺があり、女性ホルモンによってがんの増殖が抑えられつつ進行するとも考えられる。

プロラクチノーマもまれにみられるホルモン感受性腫瘍である。高濃度で治療していた5症例も報告されている。MTFで、女性ホルモン治療を継続する場合には、プロラクチンの血中濃度をスクリーニングした方がよい。

最後に
MTFにとって、短期間の女性ホルモン治療は比較的安全とされるが、長期の治療となると現段階ではよくわからないのが実情。将来的には、長期にホルモン治療を受けてきたMTFの人口も増えるため、ホルモンに関連した合併症増えてくるかもしれません。
いつもありがとうございます。

英医学文献参照
Breast Cancer in Male-to-Female Transgender Patients: A Case for Caution
Clin Breast Cancer.2015 Feb;15(1):e67-9.
【MTFのがんに関連する記事】
MTFの前立腺がん症例報告①
MTFの乳がん症例報告
性同一性障害gidのホルモン治療による「がんの発症頻度」

自由が丘MCクリニック院長の大谷です

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