執筆者:性同一性障害(GID)学会認定医 大谷伸久

男性ホルモン治療によるFTMの声の変化

多くのFTMにとって男性化を促進させる治療の1つは、男性ホルモン(テストステロン)治療です。

男性ホルモン治療の効果で最も希望する1つに、男性と同じように声が低くなりたいことです。

FTMの多くは、例外がなくもありませんが、MTFと違いボイスセラピーを必要としないで、男性ホルモンを取り入れることによって低くなると考えられています。

確かに高い頻度で、FTMの多くは、男性ホルモン治療することにより、男性の思春期と同じように声帯に生理的変化を起こすことができます。その効果は、不可逆性(もとに戻らない)です。

男性ホルモン治療開始後どのくらいで声が低くなるのか?

男性ホルモン治療でFTMの声が低くなることは、よく認知されていますが、声が低くなる時期、どの程度の低さになるかはあまり知られていません。

限られた研究によると男性ホルモン治療を開始後2~4か月以内に効果が出てくるとされています。ネビドを使った例では、2~4か月で効果が出てきています。

また、他の研究では、1年経った時点でも、155Hz、132Hzまでしか下がらない例もあります(Borsel,2000)。

生物学的に声の波長は、女性の平均は、200~225Hz、男性の平均は、100~130Hzです。

似たような症例で、セミプロの歌手では、3~4か月で効果がでてきたり(Damrose,2009)、もっとも早いケースでは、男性ホルモン治療開始後2週間!で、声の変化を来たしたという例もあります(King,2001)。

※確かに、当院でも1回の男性ホルモン注射で、声がイガイガしてきて効果が出てきたというひともいます。(この論文読むまで気のせいかなと思っていましたが…)

もっとも新しい研究報告では、これらの研究が少なく、対象にしているFTMの数が少ないですが、15人中9人が1年間経過を見れたケースでは、最初の9か月で半音下がり、ほぼ男性と同じ低い声になっています(Deuster,2016)。

対象となる症例数が少ないものの、声の変化は、最初の2週間ぐらいで起こり、その後の変化は、ゆっくりだったり、早くに変化したりと、かなりの個人差があります。

【FTMの声の低音に関連する記事】
男性ホルモンによるFTMの声の男性化
FTMの男性ホルモンによる声の変化③

☞声帯と声について
・耳に聞こえる声の高低は、基本周波数によって決まり、基本周波数が低いほど、声が低くなります。
・普通の男性の平均値は、85~155Hz、女性の平均値は、165~255Hzと言われています。
☞海外医学文献
Effect of testosterone on the transgender male voice
American Society of Andrology and European Academy of Andrology 2016,1-6

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